2025年秋、メタプラネット(3350)の株価がついに400円台まで落ち込んだ。年初には一時1,900円を突破し、SNSや投資家界隈を賑わせた銘柄だけに、この急落を「やっぱり仕手株だったのか」と見る向きもあれば、「むしろ買い場が来た」と前向きに捉える声もある。
では、メタプラネットに一体何が起きているのか。ここでは会社の変遷からビットコイン戦略の実態、株価変動の背景、そして今後のシナリオまでを整理して考えてみたい。
会社の概要と変遷
メタプラネットはもともとホテル事業や飲料卸売を手がける企業だった。正直に言えば、長年にわたって目立った存在ではなく、業績も横ばいから縮小傾向にあり、東証グロース市場の中で「小粒で地味な企業」の一つに過ぎなかった。
しかし2023年以降、経営陣が大胆に方向転換を図る。「日本版マイクロストラテジー」を標榜し、ビットコインを保有資産の中心に据える戦略を打ち出したのだ。
ビットコイン戦略とその規模
2025年5月、メタプラネットは追加で5,419BTC(約936億円相当)を購入。これにより総保有量は25,555BTC、取得総額は3,982億円に達した。
この数字は日本の上場企業としては群を抜いている。比較対象となる米マイクロストラテジー(約214,000BTC保有)には及ばないが、時価総額規模からすれば極めて大胆なポジションだ。
つまりメタプラネットは、実質的に「ビットコイン価格の動き=企業価値の変動」という特殊な企業体に変貌した。
株価急騰の背景
2024年~2025年初頭にかけて、株価が1,900円まで急騰した局面があった。その背景にはいくつかの要因がある。
ビットコイン価格が10万ドル目前まで上昇し、強気相場が市場を席巻していたこと
「日本初のビットコイン大量保有企業」としての物珍しさとテーマ性
投資家のリスクマネーが新興市場に流入したタイミングと重なったこと
SNSや掲示板で「日本のマイクロストラテジー」「日本発のBTC ETF的存在」といった言葉が躍り、投機的な資金が集まったことも無視できない。
下落に転じた理由
しかし、その熱狂は長く続かなかった。株価は春以降、急速に下落へと転じた。その背景にはいくつかの要因が絡んでいる。
(1) ビットコイン相場連動のリスク
BTCが一時的に調整局面に入り、8万ドルから7万ドル前後まで下落。これがそのまま企業価値評価の下げ要因となった。
(2) 株式希薄化懸念
ビットコイン購入資金を賄うために増資や海外公募が繰り返され、「また株を刷るのでは」という警戒感が広がった。株式の希薄化は投資家心理に大きなマイナスとなる。
(3) 本業の収益基盤の弱さ
ホテルや卸売事業は縮小を続けており、キャッシュフローの柱とは言い難い。つまり「BTCの含み益以外に、安定収益を生む事業が乏しい」という現実が浮き彫りになった。
投資家心理と日本市場全体の文脈
投資家心理を整理すると、メタプラネットは「夢を買う銘柄」から「リスクを直視する銘柄」へと変わったといえる。
しかも国内投資家にとっては、足元で地銀の国債需要減少や生保の超長期債需要一巡など、資金循環構造の変化が意識されている時期。結果として、リスク資産に対する目線も厳しくなりやすい環境だった。
ただし一方で、日本全体の家計金融資産は2,100兆円を超え、依然として潤沢。メガバンクや海外投資家が国債やリスク資産に資金を振り向ける動きもある。したがって「資金流入がゼロになる構造ではない」という点は押さえておきたい。
今後のシナリオ
将来の展開は大きく二つに分かれる。
強気シナリオ
ビットコインが再び10万ドルを突破し、保有資産が急増する
仮想資産銘柄としてのテーマ性が復活し、投機マネーが流入
新規事業や海外展開により収益基盤が少しずつ整う
弱気シナリオ
BTC価格が下落し続け、含み益どころか評価損が拡大
追加の増資で希薄化がさらに進み、既存株主の価値が低下
本業不振が続き、事業会社としての評価が低迷
投資家への示唆
メタプラネットに投資するということは、ビットコインにレバレッジをかけて投資するのと同義に近い。しかも現物BTC投資と違い、株式の場合は増資による希薄化リスクという“もう一つのリスク”が存在する。
逆に言えば、BTC価格が再び大きく上昇した際には、レバレッジ的に株価が跳ねる可能性もある。投資家はそのリスクとリターンの非対称性を理解しておく必要がある。
まとめ
メタプラネット株が400円台まで下落したのは、ビットコイン依存という戦略の光と影がそのまま市場に反映された結果だ。
「夢」と「現実」、「期待」と「不安」。この二つの間で投資家心理は揺れ動いている。
今後の株価は、ビットコイン相場と経営の資金調達手法次第で大きく変わる。投資妙味がゼロになったわけではないが、リスクを直視する冷静さは欠かせないだろう。
免責
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の銘柄や暗号資産の売買を推奨するものではありません。
記載の数値・事実は公開情報を基にしていますが、正確性・完全性を保証するものではありません。
投資判断はご自身の責任で行ってください。
市場環境・会社方針は予告なく変わる可能性があります。
出典
日本経済新聞『メタプラネット株が年初に一時1,900円突破、SNSで話題に』(アクセス日:2025/10/19)
日本経済新聞『メタプラネット株、400円台に下落』(アクセス日:2025/10/19)
CoinPost『メタプラネット、ビットコインを基盤資産に据える戦略を発表』(アクセス日:2025/10/19)
日経新聞『メタプラネットがビットコイン追加取得、5,419BTCを購入』(アクセス日:2025/10/19)
CoinDesk JAPAN『メタプラネットのBTC保有量、2万5千BTCを突破』(アクセス日:2025/10/19)
Bloomberg『MicroStrategy、ビットコイン保有量21万BTC超に』(アクセス日:2025/10/19)
CoinDesk JAPAN『ビットコイン、10万ドル目前に』(アクセス日:2025/10/19)
Yahoo!ファイナンス『メタプラネット、海外公募増資を決議 発行価格553円』(アクセス日:2025/10/19)
日本経済新聞『地銀の国債保有減少、生保の超長期債需要が一巡』(アクセス日:2025/10/19)
ロイター『日本の家計金融資産、2025年6月末に過去最高2,239兆円』(アクセス日:2025/10/19)
日本銀行『資金循環統計(2025年6月末速報)』(アクセス日:2025/10/19)